FFD blackbird

これまたちょっと前の話なのですが、ニュージーランド・レゲエの代表格バンドFat Freddy’s Dropの最新作『Blackbird』がリリースされていまして、初の日本盤流通というタイミングで、ありがたいことにライナーノーツを書かせてもらいました。加えて、今発売されているミュージック・マガジンにも彼らについて寄稿しています。なので、大好きな彼らと、ニュージーランドのレゲエについてのこぼれ話を書きたいと思います。そもそもニュージーランド・レゲエって何だ? っていう人が大多数だと思うのですが、実はニュージーランドにおける自国のレゲエ・マーケットは非常に大きく、個性的なバンドがたくさんて面白いシーンなので、ちょっとその歴史を紐解いてみたいと思います。ニュージーランドにレゲエが根付いたのはボブ・マーリーの初公演が行われた1979年で、日本にも同じタイミングで初来日公演が行われています。
 その後、HerbsとかDread, Beat and Blood(LKJの名盤のタイトル)なんていうバンドが出てきます。※日本で例えると南正人あたりに近いかも?? このあたりのバンドはまだストレートなコピーに近い(見た目も込みで)感じで、これがオリジナルなレゲエかというとちょっと微妙。とは言え、ニュージーランドの原住民=マオリ族の間でラスタの教義が受け入れられたこと、モクモク好き(?)なニュージーランドの国民性にもばっちりフィットしたこともあり、レゲエはニュージーランドに急速に受け入れられたようです。
 とは言え、ニュージーランドのレゲエが面白くなったのは2000年代に入ってからで、ジャングルやドラムンベースなどの、レゲエから派生したダンス・ミュージックの登場以降。Fat Freddy’sもこの系譜に当てはまり、同郷(Wellington)の先輩バンドにSalmonella Dubがいたり、あとはFat Freddy’sのメンバーも参加していたニュー・ルーツ風味の強いTrinity Rootsなどもいます。ほかにも独特のジャジィな感覚で根強い人気を持つレゲエ/ダブ・バンドのThe Black Seeds、ダンスホールからファンクまで雑食性の豊かなKORA、サイケなダブ〜エレクトロニカで日本だとWakyoからリリースしていたPitch Blackなどが出てきます。いずれもご当地バンドのレベルではなく、世界に通用するポテンシャルを持っているので、調べるうちに僕自身かなりハマっていきました。個人的なおすすめはFat Freddy’sとThe Black Seedsですね。別格に良いです。

 話をFat Freddy’sに戻すと、彼らもダンス・ミュージック+レゲエを模索し続けていて、今となっては果たしてこれはレゲエなのか?と思うほど、独特の音楽性を作り上げています。編成はDJ フィッチー(sampler)、トニー・チャン(trumpet)、ジョー・デューキー(vo)、チョッパー・リーズ(sax)、ジェットラグ・ジョンソン(g)、ドビー・ブレイズ(k)、ジョー・リンゼー(trombone)という7人組。ん! と思った方、正解。そう、レゲエ・バンドなのにドラムとベースがいない!そこが彼らの面白いところでもあります。僕にとって興味深いのは、レゲエの命でもあるドラム&ベースは、打ち込みであるのにも関わらず、インプロヴィゼーションを重視していて、いわゆるジャム・バンド的なカタルシスを持ち合わせているところ。彼らはDJに生楽器を載せてスタジオでジャムるところから始まっているので、常に即興演奏をもとにして曲が構成されています。その証拠として彼らが1曲が長く、10分近くあったりもするわけです。で、ライブ盤だとそれが倍近くに引き延ばされます。
 いわゆるジャム・バンドにもエレクトロを取り入れたSound Tribe Sector 9のようなバンドもいますが、ビート部分をごっそりシーケンスにすることはあまりしません。なぜならリズムをシーケンスにすることで即興性の自在さが限定されるからですね。たとえば演奏する側も聴く側のテンションが上がっていってもBPMは一定……ということが起きてしまう。でも、Fat Freddy’sの場合はそれありきの演奏をかなりリファインさせていて、かつライブで叩き上げてきたバンドなので、その辺は巧みに聴かせてくれます。そのあたりはぜひ、ライブ盤『Live at Roundhouse』で確認してみてください。それが打って変わってスタジオ作だと細部まで音を作り込んでいて、芸術的ですらある。音の質感やシンセの音色、ビートの構築など、異常にセンスが良い。そんな2面性を孕んでいるところも、非常に好みであったりします。もうアーティスト写真とかは、ぶっちゃけイモっぽくてダサいんですが、音楽は本当に間違いないです。洒落てて、センスフルなプログレッシブ(進化した)・レゲエって感じ。
 そんなこともあってか最初の頃はJazzanovaがリミックスしたり、Giles Petersonがラジオでプッシュしたりと、わりとクラブ・ミュージックよりのダブ/ジャズ・バンドとして認知されていました。彼らの1st作は2005年リリースの『A Based On A True Story』(必聴!)ですが、すでに恐ろしい完成度を誇っていてビックリしました。
※何でも制作期間を6年もかけたそうで。。。マイペースなバンドです。
 2009年の2nd作はさらにエレクトロな要素を突き詰めていきましたが、ちょっと難解なところもあってか、セールスもそれほど芳しくなかったよう。でも、最新作『Blackbird』は間違いなく傑作です。彼らの原点である即興演奏とエレクトロニクスを最も良い形で融合できているというか、もうそれが自然に聞こえるくらいに、溶け込んでいるのが素晴らしい。即興による自在な曲転換も新境地を切り開いてて、その意味では1st作をより進化させたのが今作だなという印象です。あと、彼らの場合はマニアックなサウンドも良いのですが、それ以上に歌も良い。マオリの血を受け継いでいるジョー・デューキーの憂いのあるソウルフルな声がたまらんのです。一説によるとマオリは歌が得意らしいですが、実際に同列のシンガーは言われると似たニュアンスがあるような気もします。ここまでマニアックだとか書いてきましたが、実際にはすごくポップな体裁を保っているので、レゲエ好きだけではなく、エレクトロ好きから、ジャズ〜ダブ、ラウンジまで、幅広い嗜好の人に聴いてもらえるバンドだと思います。
 これ見て聴いてみたいなーと思った方はぜひ!一度聴いてみてください。日本盤が売れたら、悲願の初来日公演が実現するかも?? ってことで、今回はこんな感じです。