Photo by Daisuke Ito

Photo by Daisuke Ito

 8/23にリキッドルームの名物イベントHouse Of LiquidにてA Guy Called Gerald(以下Gerald)の活動25周年を記念したアナログ・ライブ・セットが開催されました。Geraldはアシッド・ハウスの雄=808ステイトの初期メンバーであり、その後はジャングル/ドラムンベースへと転向し、現在はベルリンに移住し、良質なアンダーグラウンド・テクノを表現する大御所です。そしてGeraldと言えばアシッド・ハウスを生み出したダンス・ミュージックの名機ROLAND TB-303、SH-101、TR-808、TR-909の使い手としても知られ、今回のライブはこれらの往年の名機を駆使した、オール・アナログ・マシンによるパフォーマンス!これは否が応でも期待してしまいます。
 今回はGeraldの取材も兼ねていたので、リハーサルからのぞかせてもらったのですが、ステージにはROLANDのビンテージ・マシンがズラリ……。それ目当てで観に来た人も多かったようで、機材好きな関係者の方々がステージの端々で“スゴイね〜”なんて言っていて、何だかほっこりした現場の雰囲気でした。で、やっぱりすでに30年近く前の機材ということもあり、中々思うように音が鳴らないのですが、それでもGeraldはマイペース。“あれ、やっぱり鳴らないなぁ”なんて言いながら、時間が押すこと一時間半。。。ようやくリハーサルが一段落して、無事にライブがスタートとしました。やっぱりビンテージの電子機器を使うのは、それ相応のリスクも孕んでいるのだなと実感したりも。今回Geraldが使用する機材の中でも主軸となるTR-808は、ROLANDから1980年に発売されたリズム・マシンです。

TR-808

 ダンス・ミュージック好きでなくとも誰もが一度は聴いたことのある、重心が低くて“ボーンボーン”と唸るあのキックや、機械っぽいハンド・クラップの音は808によるものです。丸みのある低音はもちろん、タイトなクラップや硬いハイハットにタムのサウンド、さらにパキっと締まりのあるグルーヴ感も808ならでは。これだけあれば延々と朝まで踊れてしまう。そんな808ってやっぱり偉大だ! と、ライブ中に何度感じたことか。まさにエレクトロ・ダンス・ビートの原点を感じさせてくれました。
 ライブ中のGeraldは808のビートを主体に、TR-909や他のリズムマシンで音色を加えたり、ベース・シンセでもあるTB-303やSH-101をビキビキと鳴らしたり、
そのほとんどを即興演奏のように操り、テクノからアシッド・ハウス、時にはデトロイトっぽくなったりと、さまざまなサウンドを展開します。それも当然、元はと言えばすべてステージ上の機材から生まれた音楽。それを考えただけでも何だか感慨深いですし、しかもオリジネーターのGeraldがステージ上でそれらを操っている。
つまりは1980年代後半にGeraldがスタジオで実験していたことをほぼ再現しているわけで、そのどれもがやっぱりGeraldの音なんですよね。そこが素晴らしいです。何だかタイム・スリップして当時の雰囲気を知れたような、そんな感慨深さもありました。
 こういったすべてアナログ・マシンのライブ・セットは、今となってはあまり聴く機会がないですが、やっぱり当時のマシンのサウンドは深みがあって、自然と体に馴染む感じが最高に心地良いです。ライブ・パフォーマンスもちょっと機材のことを知っていれば、“お、今はTB-303弄っているな”と分かるため、こちらもちょっと予想ができ、ある程度のキャッチボールができて観ていて面白いです。シーケンスがメインのライブとは言え、フィジカルなパフォーマンスとして成立しているところが良いですね。この手のライブはラップトップ・パフォーマンスとの比較になってしまいますが、ラップトップがベースだとコントローラーを操っていたとしても、何をどう操作しているのかは不明なので、観ていても、何だか気分的に盛り上がらない気持ちが、常にどこかに存在してしまうもの。そういう意味でもGeraldのオール・アナログのライブ・セットには、その機材のレアさ加減といい、どこか“伝統芸能”的な要素もあり、こういう伝統的なエレクトロ・ダンス・ミュージックのパフォーマンスはぜひとも保存すべきものだ!そんな思いを強く感じたパフォーマンスでした。
 ちなみにライブ当日に行ったインタビューはサウンド&レコーディング・マガジンの10月号に掲載を予定しています。Geraldの近況からライブの機材、制作方法までじっくりと語ってもらったので、ぜひチェックしてみてください。
またタイミングを見計らって取材のこぼれ話でも書こうと思います。

ジェラルド&私