前衛的なテクノ~ミニマル・ダブのシーンにおいて注目を集めるスペイン出身の鬼才アーティスト=Svreca。彼はこれまで数回にわたる来日公演で、素晴らしいDJセットを披露してきた。初来日となった2012年のUNITでの浮遊感漂う前衛的なミックス、さらには2012年のLabyrinthでのアシッディかつインダストリアルなパフォーマンスは、カッティング・エッジなエレクトロ・ミュージックの希求するリスナーにとって大きなトピックとなったのは記憶に新しい。2013年にはBaba Zulaとの公演を敢行した彼が、去る2014年1月に再び日本に降り立った。ここでは1月25日に代官山UNITで開催されたパーティ=FRUEにて披露した、オープン・トゥ・ラストの6時間セットの模様をお伝えしたい。
時計の針が12時を回る頃にステージへと姿を表したSvreca。ラップトップ・コンピューターとFaderfoxのコントローラーというシンプルな機材を用い、ロングセットの手始めにドローンを紡ぐ。Svrecaのワンマン・パフォーマンスということもあり、早い時間から人の入りも良い。鬼才と言えどSvrecaの生み出す空間はどこかに上品さが漂う。それもあってかフロアを見渡しても踊りを楽しみクラブ・フリークの隣で、生粋の電子音好きが下を向いて揺れていたり、それに加えてファッショナブルな女性客まで、多彩な客層もSvrecaへの注目度の高さゆえだろう。
前半は今日のために追加されたという2発のウーファーも相まって、重低音が地響きのように鳴り響く。ひたすら重苦しくノイジーなサウンドは映画『ロード』を想起させるような、絶望的な大地の振動のよう。徐々に硬めのパッドを入れながら、低音主体から中域~高域にピークを持つ多幸感のあるアンビエントへと移行していく。ノンビートながらにそれぞれのトラックのピークとなる周波数帯域を変化させながら、サウンドの色彩感を操っていく絶妙な選曲センスに、まだ序盤ながらも感動してしまった。
ここからはビートを入れつつ冷涼でミニマルなダブ・テクノを主体に、残響音を強めていくことでアトモスフェリックなグルーブを展開。4つ打ちやダブステップのビートを抜き差ししながら、要所でドローンを挟み込んでいく様は、まるでサウンドを使ってパレットに色彩を描いていく画家のよう。個人的なハイライトはミニマル・ダブから一度ノン・ビートになり、Imaginary Softwoodsをプレイしたあたり。今回の来日に帯同している前衛作家Pedro Maiaがスクリーンに映し出すモノトーンの美しい映像と一体感となったメランコリックな世界観に吸い込まれるかのようだった。
その後は完全なテクノ・セットとなり、フロアも大いに沸く。2013年のUNITでのDJセットと比較すると少し遅めのBPMで、サウンドもインダストリアルでSっ気たっぷりに攻めるというより、増設したウーファーのせいもあってか、しなやかでグルーヴィな印象。ノンビート・タイムも特にはなく、曲のつなぎ1つとってみても、それほどビートを切らずにスムーズにミックスしていくという、ダンスを意識した展開。Pedroの映像もモノトーンから極色彩になり、Svrecaはアシッドなループから重厚なシンセまでウワ音に変化を付けながらも、イーブンにキックを鳴らす。オーディエンスの熱に答えるかのように、Svrecaもテンションをキープし続けてラストまで疾走した。
最後に個人的な所感を言わせてもらうと、筆者のようにLabyrinth 2012で彼が見せた奔放かつアシッドな世界観に魅了された人としては、後半のSvrecaのダンス・セットは少々淡泊で、退屈に感じたのも事実。細分化が進むエレクトロ・ミュージックにおいて、Svrecaほど自在にジャンルを行き来しながら奔放かつ独自の世界を構築できるアーティストはそうはいない。だからこそ、彼の真骨頂でもある(と感じている)破綻しそうでしない、計算されたかのようなあの崩壊美を、今回のダンス・セットにも織り交ぜてほしかった……。まぁ、そうは言っても、次回のSvrecaがどんなセットを体験させてくれるのか、早くも楽しみであるのだが。