なかなか興味深い音楽のレクチャーを聞いてきたのでまとめ書きしたいと思います。

今回お邪魔したのは代官山のカフェ&ライブ・スペース、山羊に、聞く?で不定期にて開催されているジャズと即興の関係性を考え直すライブ&レクチャー・シリーズの第三回目。毎回南博さんと大谷能生さんを中心に、ライブとトークが繰り広げられるこのイベント、今回のテーマは「ビート」ということで、ジャズはもちろん20世紀のアメリカ音楽のビートがどのように発展してきたかについてのレクチャーが行われました。手元には『事典 世界音楽の本』にて高橋悠治さんが書かれているリズムの関する著文とマイルス・デイヴィスで有名な「Nefertiti」の楽譜。まず3人が演奏したのが「Nefertiti」。それまで知らなかったのですが楽譜を見ると、この曲、ほんの16小節ループで出来ているんですね。3人の演奏のあとに見たのが1967年のマイルス・デイヴィス・クインテットのライブ映像。これは家に探してから調べたので、この映像だったかどうかは分からないですが、トニー・ウィリアムス(ds)、ロン・カーター(b)、ウェイン・ショーター(sax)、ハービー・ハンコック(p)からなるクインテットの時期のものという意味では同じ。南さんもおっしゃっていましたが、ウィリアムスのドラムがキレっキレでビックリしました。

https://www.youtube.com/watch?v=LVFLYz0SdKg

いわゆるモダン・ジャズの金字塔とも言えるような演奏ですが、たぶん一般的に聴くと“ビートがまったく分からない”。なぜかというと、16小節ルールはあるのですが、各々が16小節を自由に解釈して演奏しているので、当然リズムにおいては今のポップスのように縦の線が合っていない。アクセントが各プレイヤーによって異なっているので、聴感上は非常にアブストラクトにも聞こえると、大谷さんは指摘していました。確かにウィリアムスのドラムはどんどんズレていくし(最終的は合うのですが)、ある意味ポリリズムでもある。でも、これは即興だからと行って感覚でやっているというよりも、例えば4拍で捉えるのか、3拍で捉えるのか、といったように考えられたうえでの演奏だと。確かに。モダン・ジャズが踊れない音楽になっていった理由も分かります。より演奏者目線で複雑化していったわけですが、その後のマイルスがやったのはリズムの表面化でした。話が前後しますが、ブラック・ミュージックは先ほどの譜面のように基本的にループ(繰り返し)で演奏することで成り立っています。ということで例を挙げていたのがスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Dance To The Music」です。

ジャンルは違いますが、リズムの縦の線が合っていて分かりやすいですよね。この曲は各楽器のループが積み重なることで構成されているのもすごくブラック・ミュージックらしいです。その後レクチャーでは、こいったリズムを表すようなフレーズっていうのはどこからきたのだろうか? というテーマになり、話は時代的にもかなり遡り、1800年代末のラグタイム、さらには1930年代〜1940年代のブギウギのピアノでは左手が8ビートを奏でていることなどについて触れていました。ちなみに北米アメリカでは、パーカッションの演奏が禁止されていたのでリズムに乏しく、新しいリズムというのは常に南部(南米に近いところ)から入ってきていました。だからニューオリンズはリズムの宝庫というわけです。ある意味ファンクがあそこまでミニマルにドラムだけでアフリカン・ビートを体現したのはスゴイですよね。しかもそれが逆にポリリズム&パーカッション天国のアフロ・ビート(フェラ・クティ)に影響を与えるのだから。。。


こちらラグタイムピアノ。確かにリズムにシンコペーションがあってクラシックとは全然違う雰囲気ですね。


Honky Tonk Train Blues。そのままこれがロックンロールになっていくのがよく分かります。

もうひとつ面白かったのはブギウギなどはダンス・ミュージックであり、当時のダンスはヨーロッパからきた“社交ダンス”の意味合いが強かったので、基本的には男女ペアで踊ることが基本になっていたということ。ここにアフリカの要素(16ビート)が加わってくると、ダンスはより個々のものになっていく。そうやって考えると日本で今モメている風営法って、戦前のダンスのことかい!って突っ込みたくもなるのですが、今のクラブでかかるダンス・ミュージックはもちろん後者です。ということで分かりやすいのがこれですね。16ビートと言えばファンク。ファンクと言えばJB。確かに60年代前半のJBを聴くともっとブルースっぽくて、ここまで16ビートのゴリ押しではないですよね。


帝王JB。みんなバラバラに踊っていますねー。これが16ビート。。ちなみにこの映像は73年なので、ブーツィー・コリンズらが在籍していた黄金期のJB’sは、もう少し前の時期です(ちなみに71年あたり)。

また時代が遡りますが、いわゆるモダン・ジャズがやっていた4拍と3拍が混在しているというのは、昔のブルース(こっちのが訛っている)にもあり、こういったリズムのズレがもたらす“訛り”が、より顕著になっていくのが、いわゆるサンプリング(ヒップホップ)になっていくという流れ。ということで、大谷さんが推していたのはJ Dilla。確かに訛り感としては非常に分かりやすいです。面白かったのは南さんがJ.Dillaのドラムを聴いて「怪我をしたドラマーのリズムみたい」とおっしゃっていたこと。確かにヒップホップはこういったリズムの訛りやズレをクールとする部分もあるので、生演奏に置き換えると確かに違和感があります。ある意味、サンプリング独特のノリを生演奏でやってのけたQuestlove?なわけです。もともと訛っていたジャズやファンクなどのリズムをサンプリングするわけだから、当然リズムは訛っている。それを重ねていくから余計に訛る!ということで、アメリカのポップ・ミュージックにはジャズやブルースなどのそれが受け継がれているんだという話でレクチャーは終了。南さんも途中におっしゃっていましたが、「アメリカは音楽だけは本当に面白い!」僕はアメリカの映画も好きですが、アメリカ音楽のリズムの奥深さは本当に面白いです。


ハットがビミョーにハネてますよね。あとベースの食いつき感が半端ないです。

https://www.youtube.com/watch?v=YkkuO21Hy2k
これは個人的に。questlove?がジャズをやるとこうなる。

レクチャーのあとは3人によるリズム主体とした即興演奏。こちらはエレクトロを使ったモダン・ジャズ的解釈という感じのアブストラクトな演奏を展開していました。全体的にもマニアックで面白いセミナーでした。テーマはまだ未定のようですが、次回も開催するようなので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

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