昨日、友人のPAエンジニアの手伝いで行った都現美のダンスパフォーマンスがとても面白かったので覚え書きがてらつらつらと。展覧会は「新たな系譜学をもとめて 跳躍/痕跡/身体」というもので、ダンスや能・狂言などの伝統芸能、スポーツや武道といった身体表現が人間の精神世界に関わってきた系譜を辿ることで、現代の表現を見直すというもの……とは言え、展示そのものを見る時間はまったくなかったので、そこについては書けないのですが、この展覧会で行われた10/11-12に開催されたダンス・パフォーマンスが、ピチェ・クランチェンダンスカンパニー「Tam Kai」というプログラムでした。
 僕が普段書く題材は、ほとんどが音楽やそれに付随するもので、ダンスは正直疎いです。それでもこのダンス・パフォーマンスは書いておきたいと思うほど面白いものでした。まずピチェ・クランチェンダンスカンパニーとは、タイの古典仮面舞踊であるKohnの哲学を基礎にしながらもバレエなどさまざまなメソッドを取り入れ、独自の身体表現を追求してきた団体とのこと。実際僕はKohnと言われても何だなんだかさっぱりですが、タイ舞踊があの仮面を付けたりして、指先の動きに特徴のある緩やかな踊りであることは何となく想像できます。で、彼らがKohnの動きをベースにしているというのは、後から調べてみたらKohnは脚元の細かい動きが特徴……という説明からも理解できました。そんな彼らのパフォーマンスを軽く説明すると、編成は男性4人に女性2人の計6人(+奏者1人)。衣装は簡素は踊りやすいスパッツ的なもので、装飾は一切ありません。その彼らがタイの伝統音楽のBGM+アメリカ人でタイに移住して50年近い老人男性による演奏を聴きながら踊るというものなのですが、観客方面に向けた斜めの直線上でパフォーマンスをしたら、あとは歩いて戻ってまたパフォーマンスをする…というのを繰り返す。もう少し分かりやすく書くと体操の床種目に近いニュアンスで、あれは正方形の床の斜め直線に向けて、往復でパフォーマンスしますが、彼らの場合は一方通行。パフォーマンスしたら歩いて戻って順番がきたらまた踊るというインターバルをひたすら繰り返す(約50分程度)といったもの。もう観ている限りは完全なるインプロヴィゼーション・ダンスなのですが、パフォーマンスのあとのトークショウで「6つの構成に分かれてはいるが、その内容は場所や状況によって刻々と変化すると」説明していたように、あくまで即興に限りなく近いコンテンポラリー・ダンスと言えるのでしょう。
 はい、ここからが本題で何が面白かったのかというと、6部構成の話に戻すと、その構成は自分との対峙や観客との対峙を経て、その境界線の崩壊=つまりはカオスへと至っていくと言う構成が非常に面白く、その踊りの変化がとても躍動的で生命力に漲っていたのです。6人のダンスは徐々に身体がヒートアップしていくことで、激しく踊ったり、さらには前の踊り手に触発されて、マネしたり、逆にまったく違うスタイルへと変わったりと……全員が自由なダンス表現をしながら自我を開放していくことが、観ている側にダイレクトに伝わってきました。そして最後のカオス段階では叫んだり、6人が抱き合って踊っては転んだりと……とことん本能的になった行く先の幼児回帰化的なところが、何とも生命力を痛快に表現していました。このニュアンスを自分が体験したもので例えるとレイヴのように長時間踊りながら酩酊(いや覚醒かな)状態のまま、気兼ねない仲間と踊りながらコミュニケーションしていったら、その最も強烈なコミュニケーションに辿り着いてしまった……というような。いや、彼らの場合はもちろん、指先から足先まで鍛え抜かれたしなやかな筋肉、そして滑らかな動きやテクニックで、観客を魅せられるのですが、それでいて世界観的には今いったような、即興の舞踊を主軸にしつつも、6段階に展開することで、その先にあるものを追求するような強い意志を感じたのです。こういった本能的なパフォーマンスは、僕のようにダンスの技術やスタイルを知らなくても、直感的に揺さぶられるものがあるので、スッと心に入ってきて感動できました。実際に近くにいた子供がおおはしゃぎしていたのも、まぁ、簡単に言えば何となくグッときたのでしょう。その分かりやすさもこのプログラムの面白さだと思います(あとでこのプログラムを完成させるまでに毎日2年間練習したと言っていましたけど……)。「Tam Kai」の一部が観られる動画がYouTubeにあったので参考までにリンクをはっておきますが、ライブではもっとアグレッシブでこの数百倍はカッコ良かったことを最後に記しておきます。あと九州・大分で開催されるアートフェス国東半島芸術祭にも10/18-19の日程で彼らがパフォーマンスをするようなので、九州にお住まいの方がいたら、ぜひチェックしてみてください。

【こちらは国東半島芸術祭のサイト】
http://kunisaki.asia/event/88

【Tam Kai】