Photo : Alingo Loh

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良いアンビエント音楽には意識を拡大させる力がある。とは言っても、Brian Enoのような幽体離脱系もあれば、カオティックなシンセ・ドローンもあり、環境音楽、民族音楽の再構築モノ、それぞれの効能はさまざま。Chrstopher Willitsが表現していたのは、その中でも瞑想意識を増長させるような”揺らぎ”のアンビエント・ミュージックだった。1月26日、渋谷の文化総合センター大和田の伝承ホールにて2部構成で行われたソロパフォーマンス。ギターを片手にラップトップを操るWillitsは、サンフランシスコ拠点のアーティストだ。1stセットのパフォーマンスは電子音楽とギターアンビエントの中間のようなもので、ギターの音をピッチシフトさせ、さまざまなな音程にシンセサイズしたサウンドをレイヤーのように重ねていく。終始一貫したギター・シンセ的な音色が響き渡るなか、耳を捉えたのは”揺らぎの感じ”だった。もう少し具体的に書くと、ゆったりとしたフェイズ(位相効果)が心地良い揺らぎを生み出すような音。不協和音は一切なく、例えるならスティーヴ・ライヒのElectric Counter Pointを思いっきり弛緩させたようなサウンド。グッとBPMを落としたギターシンセの音色の揺らぎは、心の中で蠢く感情の波のよう。その揺らぎは瞑想時に移りゆく意識のようで、自然とインナートリップへと誘う。移りゆく意識や今日あった印象的なことを自動的に脳が描く様子を観察しているうちに、気がついたら客電が明るくなっていた。サウンドのストーリーを思い起こせば、途中に多少のベースやビートが入ったものの、終始一貫したアンビエント・サウンドに心身をほぐされたような1時間だった。

Photo : Alingo Loh

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それと対照的だったのが2ndセット。暗転したステージで行われた1stとは違い、スクリーンに映像(大自然系ね)が映し出され、それに増幅されたかのように、Willitsのサウンドもダイナミズムを増す。1stのインナートリップ的な効用から、外へと意識を拡大させるようなドラマチックさを演出していく。1stと2ndにコントラストを付けるという意味では正しいが、個人的にはちょっとワザとらしく感じてしまった。視覚化された対象があると観るものとしては楽だが、音のとらえ方が表層的になる可能性もあり、だからこそ映像と音楽のシンクロというのは難しい。Willitsの場合、彼の十八番はギターのシンセサイズによるパフォーマンスであり、そこに変化を付けるためにビートを入れていくと、ギターとの表現力の差が気になってしまった。(これは以前にMark McGuireを観たときにも感じたことと同じ)。とは言っても、意識と呼応するようなギターのサウンドには確固としたオリジナリティがあるので、1stセットをより深化させたようなパフォーマンスだと、より多くの人を惹きつけることができるだろう。その代わりに、もっとオーディエンスの多くの人が寝りに落ちてしまうかもしれないが、この手のアンビエントのライブならそれも本望か、とも思う。