前回の続き。ライターや編集の仕事(映像関係の仕事もあるけど)をしている僕は、取材や打ち合わせ以外の作業はどこでもできるので、現場仕事が多いカメラマンの嫁は東京に残り、僕が先に移住して、環境を整えていけば、将来的に移住するのも難しくないのでは……? というのが、僕たちの去年の夏の考え。そうは言っても、肝腎の移住先は決まっていない。でも、熊野古道に行ってからはなぜか、漠然ともう東京はいいやと思うようになっている自分がいた。音楽やアート、ファッションに食べ物、数え切れないジャンルやカテゴリーにいる人々が発信するモノを享受できるのが東京で、楽しみ方も個々に合わせて千差万別。でも、何をするにしても、お金がかかる都会の暮らしに、以前ほどの魅力を感じなくなってきていた。

 ”移住先はどこにしよう?” 嫁の先輩が住む和歌山も良さそうだけど、正直、そこまで触手が伸びなかった。以前から海が好きだったので、温暖な海沿いもいいなと思い、久々に葉山にも行ってみたけど、思った以上にごちゃごちゃしているし、夏は海水浴の客でごった返すし、今自分が住みたいイメージではなかった。沖縄や奄美諸島のような南の島は……そもそも行ったことがない……で、思い付いたのが、今年の1月にスキーで行った北海道の大雪山・旭岳の麓街、東川町。たまたま一緒に遊びにいった友人が東川町が好きだったこともあって、街のいろんな場所を案内をしてくれた。景色も綺麗で温泉もある、なんだか洒落た洋服屋やさんやカフェもけっこうあったし……なによりも冬は旭岳で大好きなウインター・スポーツもやりたい放題だ。ということで気軽な気持ちで”東川町はどう?”って聞いてみた。ウィンタースポーツがそれほど好きではない嫁は、まだ行ったことがない場所なので、試しに九月くらいに行ってみることにした。

東川町では移住希望者に安く宿泊施設を貸すサービスもあって、それを利用しつつ、とりあえず第一回目の視察では趣味でもあるトレイルランニングがてらを旭岳に登って下って、旭岳温泉で汗を流し、そのあとで街の有名な居酒屋”りしり”に行ったり、あとは東川とは関係ないけど旭山動物園を訪れたりと、まあ観光に近いものをした。東川町は(以前はあったけど)電車がないので、駅&商店街という図式がない。それもあってか、街の雰囲気はとってもユルい。どうせならできるだけ自然に近い場所がいいという、都会を離れたい都会人の身勝手な妄想にもピッタリだ。大雪山連峰を見渡せる景観の良さに加えて、この町には上水道がなく、ここで暮らす人々は大雪山の地下水を組み上げて生活しているという。都心のカルキ臭い水を、備長炭で浄水してから飲んでいる僕にとって、それはとっても魅力的に映った。

 ということで、漠然と移住先を東川町に決めて(ちなみに特に知り合いがいたり、縁があったわけじゃないです)、町のことを調べ始めてみると、東川町は北海道では稀に見る人口増加地域で、町おこしの手本にもなっていた。『東川スタイル』という、地域住民や行政にスポットを当てて、町の魅力を探った書籍も刊行されていて、本にはサステイナブルな価値観を持った町の人々に、交付金に頼らない町おこしを持続させている行政について書かれている。何だか知るほどに暮らしやすそうな気がしてきた。インターネットで東川の物件情報も調べていると、広大な土地の物件があって、Google Mapを駆使してみたら、とってもだだっぴろい原野であることが分かり、ここを買って自分たちが住む住居と人に貸すコテージを数棟作って、残りの土地で畑でも作ってみたらどうか……なんて楽しい想像は膨らむばかり。意気揚々とした気持ちで昨年の10月、ふたたび東川を訪れたのだった。

草が生えすぎててよく分からない売り地の原野

旭岳は九月に紅葉がはじまっていた

ペンギンの歯、はじめてみた!