フェラ・クティのドラマー、トニー・アレン。その入り口はロイ・エアーズとフェラ・クティのコンパイル盤『Music Of Many Colors』だった。最初に聞いたときは、アフロビートの大所帯アンサンブルに耳が慣れていなかったこともあり、さらにはポリリズム的な要素もあって……まあとにかく、複雑過ぎてよく分からなかった。でも、『Black Voices』『Home Cooking』といった90年代末~2000年代にリリースされたトニー・アレンの再復帰作を聴いて、よりドラムを前面に打ち出した演奏を聴いて“なんじゃこりゃ!”と思ったのは、今でも覚えている。

ヒップホップを経てブレイクビーツの元ネタとなった演奏を聴いたときに感じたのは、70年代のミュージシャンの演奏が90年代になっても、サンプリングを通じてクールであり続けたことへの凄さだった。でも、そのぶんファンクのドラムがどういうものかは知っていたし、スゴイなーとは思っていたけど、アレンの演奏は本当に未体験のものを知ったときの“なんじゃこりゃ”という感覚だった。まがりなりにもちょっとだけドラムを叩けることもあって、アレンのドラムをコピーすると同じグルーブをキープしながらも、ループするようでしなかったり、フレーズもけっこう変わっていく。あのとぐろを巻くような強烈なグルーヴはもちろん、ドラムのフレーズに耳の焦点を合わせて聴いてみても、何とも不思議なドラムだ、思っていた。

 そんなアレンにインタビューする機会ができて、取材の前日にライブを観に行った。そのときはアレンが若き頃の多大な影響を受けたというアート・ブレイキー率いるメッセンジャーズのトリビュートという名目だったが(同名義の作品も素晴らしかった)、ジャズだから当然ソロ回しがあるのだが、アレンの番になると、ちょっと叩くとすぐに他の楽器に入ってくるようジェスチャーをする姿に、“あれ、なんで?”と思った。もちろんソロ回しが大得意ってタイプじゃないのは分かるけど、できないことないのになーと、ちょっと違和感を感じたりもした。

 翌日、アレンの取材のときにフェラ・クティのレコーディングの話になり、興味深い話を聞くことができた。フェラのバンドでアレンがドラムを叩くのは、他のパートをすべて録り終えてからだという。まずドラムのリズムをガイドに他の楽器を重ねていくという、一般的な録音方法とは逆になる。つまり、アフロビートはアレンのドラムを最後に録って完成となる。それを知ってから、アレンのドラムを聴くと、他の楽器のフレーズと呼応しながらビートも変わったりしていくことに気がつき、まるで長年の謎が解けたような気がした。だから、他の楽器が鳴っていない状態でのドラムソロは嫌いなんだなという、昨日のライブで感じた違和感にも納得できた。ハイハットとキックとスネアを組み合わせて、一筆書きのようなドラムでアンサンブルを完成させるのがアレンのスタイルであり、それがあのループしそうでしない、フリーキーな個性を生みだしているんだろう。

そのときのトニー・アレンのインタビューは以下から読めます。
https://mag.mysound.jp/post/386