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ステージ上のドラムセットを見るとバスドラムのヘッドに刻まれたLSMSという文字……Layne Staley、Mike StarrはいずれもAlice In Chainsのメンバーとして活躍したメンバーであり、2人ともオーバードーズで他界。90年代のグランジ〜オルタナロックを駆け抜けた故の代償としては大きすぎるが、バンドのブレインであるジェリー・カントレルは“AICは6人組のバンドなんだ”と言う。実際、彼らが20年振りに踏んだ日本で鳴らした音は、2人の意志を背負い、さらに成長を遂げていたのだ……!

……と、かなりマジで書き始めてしまいましたが、Alice In Chainsは90年代のNirvanaやPearl Jamらと肩を並べたグランジ〜オルタナから出てきたバンド。暗さとパンクの衝動、そしてポップさを巧みに操ったNirvana、グランジ以降にアメリカンロック路線を経て今や米国ロックを担う存在となったPearl Jamらと比べると、Alice In Chainsはその徹底して重くメタリックなサウンドが特徴でした。その引きずり込むようなサイケデリックで呪術的な世界観に加えて、あのドラック渦を地で行くようなロックンロールな生き方に、若き頃の自分は相当にハマっておりました。そんな彼らが20年振りの単独公演を敢行したので(感涙!)、そのレポート(思いの丈)をここに書きたいと思います。あ、ちなみに彼らは伝説のウドーミュージックフェスにも来ていましたが、それはあえてカウントしませんのであしからず。

2002年にレインが他界して以降、活動が停止していたAICは2006年にウィリアム・デュヴァールを新ボーカルに迎えて再始動。2009年リリースの『Black Gives Way To Blue』を聴いたときに、まるでレインがその場にいるようなボーカルに重く陶酔的なギター・サウンド。寸分変わらずAICらしさが詰まった名盤で、「AICの新譜がすごく良い!」と当時かなり話題にもなったのと同時に、自分もかなり熱くなっていました。ちなみに昨年リリースされた『The Devil Put Dinosaurs Here』はグラミーのBest Engineer Album(音が良いとされる作品部門)にもノミネートされていましたね。こちらも素晴らしいヘヴィなサウンドが堪能できます。

さて前置きが長くなりましたが、これらの2作のアルバムの良さもあったのでかなり期待していったのですが、これがまた最高のライブでした(現時点では自分にとって今年のベストアクト)。スタートと同時に耳をつんざくジェリーのギターの音の素晴らしいことと言ったら! ギターもベースもステージはアンプとキャビネット(スピーカー)の山になっていて、話を聞いたら全部自前で持ってきたとのこと。海外公演の場合はアンプなどは運送費もかかるのでレンタル(現地調達)されることもあるのですが、そこはAIC。これだけの輸送費をかけるなら、今のバンドならLEDスクリーンとかを持ってきそうですが、それならアンプと楽器をたくさん持って行く! という昔ながらの音にこだわるロック・バンドらしさが漲っているかのよう。それだけ音にも説得力があります。

そして新ボーカルのウィリアムがまた良かった。黒人ということもあり、あの色素の薄いロックレインとは見た目も対極ではあるので、それだけで食わず嫌いをする人も多いとは思いますが、ぶっちゃけレインより勢いもあって歌の上手いレインという印象です。レインは『Dirt』以降、3本足の犬をジャケットが発売禁止になった『Alice In Chains』の頃には、薬物中毒が深刻でほとんど歌えていない状態だったので、ウィリアムは『Facelift』期の勢いと声量がある。そしてまぁ、冷静に見れば、曲はもちろん歌詞のほとんどはジェリーが書いていたわけだし、それでいてレインとツイン・ボーカルというスタイルだったわけで、同じ世界観を出せるボーカルであればAICとしては成立する。なのでウィリアムの歌を聴いてジェリーは本当にこういうボーカルが好きなんだなと実感しました。そしてオリジナルメンバー3人の変わらなさも良いです。バラード曲ではタバコを吹かしては捨て、ツバを吐く……もう立ち振る舞いが90年代! 引きずるようなジェリーのギターと、重低音重視でウネるアイネスのベース、ハードロック度高めなキニーのドラムのアンサンブルは、相変わらず徹底してヘヴィでタイト。そこに全盛期のレインをしのぐような歌があるわけですから、もうAICファンとしては、昔ながらのAICを楽しめるのと同時に、彼らが成長していることすら感じられるという最高の夜だったわけです。もう、死ぬまでこのメンバーでAICを続けてくれ!って心の底から思ったくらいです。90年代が青春だった自分としてはそれは感無量ですが、それをさっ引いたとしても素晴らしいライブでした。

もうひとつ彼らの魅力は、90年代を生き抜いたバンドならではの説得力があること。その辺はレッチリとかもそうですね。ロックンロールな人生をまっとうしてきたからこその研ぎ澄まされた感じが音にちゃんと出ていて、それが重みになっていてる。ちゃんと自分達の音楽を確立してそれを成熟させていくというのは、ぽっと出てきた若手バンドには絶対にないし、残念ながらシーンから消えていくのはそれが無いからに他なりません。こうやって人間の成熟と一緒に成長していくのは音楽の面白いところですね。やっぱりバンドは10年〜20年を越えてからが味わい時だなと改めて実感しました。